Topさいばざる(雑記)さいばざる(雑記) 001~100

(86) つぶれていく君へ

客先常駐でプログラムを作る仕事を始めてから、もうずいぶんになりますけれども。
多くの人が、刀折れ矢尽きてつぶれていくのを見てきました。

客先常駐で開発をするのは、個人/社内開発や、自社チームとして他社と共同開発をするのとはまた違った難しさがあります。主にメンタルな部分で。


客先には客先の社風があります。
これは業務を遂行する上での方法論であったり、価値観であったり、開発手順やプロジェクト推進上のセオリーであったり。

個人開発なら俺々でかまいませんし、社内であれば一度水になじんでしまえばどうということはありません(この「社風」というローカルセオリーが身にしみるまで新入社員がツラいのは、サラリーマン経験のある皆さんなら体験があると思います)。他社との共同開発は、互いの業務スタイルを尊重して行われるのがふつーですので、文化上の対立は発生しにくく、回避されやすいです。

しかし、客先常駐(個人でもチームでも)は一味違って。
客先のローカルセオリーになじんで、しかも早めに一度結果を出して信頼しといてもわらないとならないんですね。

正直、ほとんどの客先の常識は「狭い」です。社内からしか仕事をしたことがない、多くても2~3社程度の転職経験しかない、そーいぅ人にとってはローカルルールが「常識」です。
悪気があるわけじゃありません。下請けいじめをするような下種な人間はほとんどいません。でも、自分たちが持っている常識外の行動を理解するには心理的な抵抗が働きます。下手をすると、そもそも理解してもらえません。
上手にアプローチができたなら「我々とは別のノウハウを持っている有能な人間」として認めてもらえることもありますが、大抵は「そんなの常識でしょー、どうしてできない/やらないの?」と否定的に評価されちゃうことになります。

ところが、客先常駐をする側に常駐経験が少ない場合、これは悩むわけです。
自分の今までの経験が通用しない、理解してもらえない。理不尽に高いレベルの成果物を要求されているような気がする。あるいは客先の仕事のレベルが低く馬鹿のように思えてしまう。

こんな状態は数ヶ月一緒に仕事してればそれなりに落ち着くところに落ち着くんですけれども、それまでの間は「そんなこともわからない/できないのかよ、ちっ」と言われ続けることになります。

人間、誰だって周囲と仲良くやりたいわけです。あきれられたりけなされるよりは、認められほめられたいわけです。ほんの些細なことであっても、毎日否定を繰り返されると、けっこうキツいものがあります。

この期間は、回避できません。どう上手に立ち回ったって、なるときゃなります。
なっちゃったら、誠意のある行動を取りながら信頼関係ができるまでじっと耐えるしかありません。
誠意ある行動ったってたいしたことはありません。遅刻しない、休まない、言われたことはすぐやる、程度で十分です。
相手の期待値よりちょっと高めの成果をこまめに出せばなおグッド。それだって仕様変更は必ず設計書に反映させる、バグ等を資料にして管理する、なんてことでいいんです。

ところがプログラム屋ってのは技術でっかち(自分の信奉する技術が最善だと信じる頭でっかち)が多くて。高品質なものを作るってところで信頼されたい、高いスキルを持っているってところで名誉を挽回したい、ととんちんかんなアプローチを繰り返してみたりします。

おんなじ物を作ったって、「こいつの作ったもんなら大丈夫だろう」と思って確認されるのと、「おいおいほんとに大丈夫なのかぁ?」と思われながら確認されるのでは、評価は変わってしまいます。「こんなささいな間違いなら別にいいや、直しといてね」と言われるか、「こんな単純なミスをするなんて。もっとしっかりしてくれよ」になっちゃうか。

だからまずどうしても、技術力を評価してもらう前に人間として信頼されておく必要があります。


とはいうものの、この軽くちくちくとくる作業環境はけっこうつらいです。モチベーションが維持しにくいです。日々少しずつシオれていきます。

毎朝いやいや客先に通ううちに、つい遅刻をしてしまう。
5分遅れただけなのに、なんだかその一日なんとなく針のむしろ。

こんな時は、翌日絶対遅刻しちゃだめです。命を掛けてでも定時までに行かないと。

でも、遅刻して一日ヘコんでたわけですから、翌日はもっと出勤が億劫になる。で2日続けて遅刻しちゃったりなんかすると、2日目は針のむしろがダブルサイズ。

さあ、悪循環の始まりだー。

どんどんモチベーションが下がる、ホントに客先の評価も下がる、ますます通いにくくなる。

どこかで「恥かいてもいいから一から信頼を築き直す」とか腹を括ればいいんですけど、そんな悪循環を構築しちゃうような人はそもそもなんでこんなに毎日がつらいのかわからない、とかな人も多く。

そのうちついに気力がエンプティ。客先に通うことができなくなるわけです。
出てきたって仕事できるだけの気力なんか残っちゃいません。何をすればいいのかの判断すらできなくなり、一日ディスプレイをにらんだまま固まってみたり。

ここまで来ると、もう回復はできません。さっさとリタイヤして次へ行かないとツブれます。

でも、こんな悪循環スパイラルに陥っちゃうような人は、融通の利かないタイプが多いです。リザーブまで使っちゃうくらいエンプティになるまでがまんしちゃうので、リタイヤのための行動を起こすほどの気力も残っちゃいません。

で、自分の会社に「やっぱりボクは向いていません」とか言っていきなり退職しちゃったりもするわけです。世間が怖くなって次の仕事にも就けなくなったりもするわけです。
退職もできないくらい打ちのめされちゃったりすると、ドクターストップがかかるまで静かに壊れていったりもします。


私もこの商売を始めた最初の頃、いくつかの客先で続けざまにこんな感じになりました。

何年か経ってから会社の方針でそんな迷惑を掛けた客先と共同作業をしなければならなくなり、最初から見くびられていたもんですからしまいにはその仕事を乗っ取られちゃった、なんて後日談付きで。

でも、といぅか、だからこそ、そんなハメになる人たちに腹が立ちます。

相手と信頼関係を結べなかった、モチベーションの自己管理ができなかった、ここでは自分はもうだめだと客観的な判断ができなかった、「ギブアップする」という最低限の責任も果たせなかった。

これらは全部自分のせいでしょう。
外的などんな要因があったとしても、金を払って雇ってくれている客先、一緒に仕事をやっている仲間に対してかかる迷惑は同じでしょう。

私は3年もがきました。なぜそんなことになってしまったのか、どうすればよかったのか。原因に気づいて自分なりの手法を持つのにそれだけかかりました。
でも、どんなに惨めにリタイアしても、リタイアを繰り返しても、復活できるということも経験として知りましたよ。

私の目の前でつぶれていった人たちが、その後どうなったのかは知りません。
まったく違う職種に転職してしまったか、復活できないほどのダメージを抱えて引きこもってしまったか。

でも、できるなら、そんな自分を乗り越えてたくましくなってほしいです。「いやぁあの時はすいませんでしたね」と笑って再会できるだけの強さを身につけてほしいです。

まだこの仕事を続けているのなら、3年後にもう一度一緒に仕事をしよう。

つぶれていく人と別れるたびに、私はそう言っているんですが。
まだ、再会できたことはありません。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://salv.miscnotes.com/mt/mt-tb.cgi/573

コメント

先日。

上述のような理由でフェードアウトしていった仲間の一人と、再び仕事をすることができました。

彼は、タフに成長していました。
誤解されても罵られても、「プロジェクトのために」と自分が信じる貢献を全力でこなして結果を周囲に認めさせるだけの達成力と責任力を強力に実装して復活していました。

嬉しかった。嬉しかったんですけれども。

マネジのまずさもあり、彼は数か月無理に無理を重ね、過労で通勤途中に倒れ、持病も悪化させ、ボロボロになってフェードアウトしていきました。

何としてでももう一度彼と仕事をし、今度こそ笑ってプロジェクトの終了を迎えたい。

ちくしょう。ちくしょう。あまりにもむごいです。

コメントを投稿